「梅毒は治るんですか?」
これは梅毒にかかった患者さんにまず聞かれることが多い質問です。
ご安心ください。
例外的に治りにくい人はいますが、薬をきちんと飲めば治ります。
例外については後述しますが、感染症にとって治るかどうかは効く薬があるかどうかが鍵です。
◇治療はペニシリン系抗菌薬
梅毒は細菌なので、細菌をやっつける抗菌薬(≒抗生剤≒抗生物質)が有効です。しかし、抗菌薬ならなんでもいいわけではありません。
細菌ごとに効果のある抗菌薬は異なります。
代表的な性感染症原因菌と第一選択薬抗菌薬
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ペニシリン系抗菌薬が梅毒には非常に効果的ですが、クラミジアなどには効きません。これは薬の元々の性質(作用機序)によって決まっていることです。
ちなみにドラマ化もされた村上もとか原作まんが「JIN-仁」の中で、主人公がカビから作った薬がこのペニシリンです。
作者のインタビューによると、現代の外科医である仁を江戸時代にタイムスリップさせた発想は、梅毒で苦しむ女性を救わせたいという思いが出発点だったそうです。
また、梅毒ではそれほど問題ではないのですが、感染症治療における大きな問題に「耐性化」という現象があります。
最初は効いていた抗菌薬が効かなくなってしまうことを耐性化といいます。
例えば、ペニシリンを分解するタンパク質を作れるようになってしまい、ペニシリンが効かなくなった細菌はたくさんいます。
梅毒に関しては、ペニシリン系抗菌薬に耐性化していないのできちんと治ることが多いのです。
※しかし、投与法や用量に関しては今議論が活発化はしています。
耐性化については、ペニシリンの耐性菌がいない梅毒の項で話す必要性は低いのですが、性感染症領域においても大事な話なので、少しお付き合いください。
現代の感染症治療は耐性菌との戦いなのです。
性感染症の分野では、特に淋菌、マイコプラズマが大問題となりつつあります。
淋菌も昔はペニシリン系、ニューキノロン系などの抗菌薬が有効でしたが、いまではどちらも効かないことが多いので使えなくなってしまいました。
頼みの綱の点滴のセフェム系抗菌薬にもちらほら耐性菌が出現してきています。
一部の方にしか伝わりにくい例えで恐縮ですが、細菌は少年ジャンプのキャラに似ています。
一度見た技(抗菌薬)は次から通用しなくなるのです!
淋菌などはセフェム系でも殺せない耐性菌のことをスーパー淋菌と呼びます。
名前までジャンプっぽいですね。
ここに抗菌薬を飲みきらなければいけない理由も見えてきます。
中途半端に抗菌薬の内服をやめてしまった場合、生き残った菌がその薬に効かなくなってしまう(耐性化してしまう)可能性が高いのです!
必殺技を使うなら確実に皆殺しにしなければ、次は返り討ちに合うのです!
症状がおさまっても抗菌薬は最後まで飲み切りましょう。
※内服期間は世界基準でだいたい決まっています。
ここまで、抗菌薬の基礎知識を紹介しつつ、梅毒の治療で苦労することは少ない理由を説明してきました。
梅毒はペニシリンに対する耐性化がないので、冒頭のように治ると自信を持って言いやすいのです。
ただ、例外的に治りにくい場合もあります。
1.再感染
2.神経梅毒合併
3.HIVにも感染している場合
検査で治ってきていたのに再度悪化するとき、一番多い原因が再感染です。
梅毒は、何度でも感染します。(性感染症には何度も感染するものが多い)
感染力が強く、かつ無症状の時期も多いため、パートナーとの間でピンポン感染が起きやすいのです。
※ピンポン感染:パートナーのどちらかが治癒していない場合に、再びパートナーに感染させ、いつまでもふたりで繰り返し感染させ合ってしまうこと。
<梅毒は治るけど、けっこうやっかい>
以下に梅毒のやっかいな特徴を羅列してみます。
・感染してから発症するまでの期間(潜伏期間)が長い(10〜90日)ので自分の感染に気づかずほかのひとに感染させることがあります。
→梅毒陽性になったら過去90日以内に軽い接触以上の行為があれば連絡してもらうことになっています。
・無症状も多い。
・無症状でも感染させる可能性あり。
・感染率が高い。時期によっては30%
・何度でも感染する。
これらは新型コロナのたちの悪さと共通していますね。さらに、
・軽度の接触でも感染するリスクが高い。コンドームでは防ぎきれないことも多い。
・感染後4週間くらいしないと検査が陽性化しない。(場合によっては症状があるのに陰性になってしまうことも)
・症状がしばらくすると消失する。
初期のしこりや全身の発疹も1〜2ヶ月で自然に消えるため、治ったと勘違いしてしまい性行為を再開してしまう人がいます。
当然治っているわけではないので感染する可能性は高いです。
梅毒のどの時期でも中枢神経系が侵される可能性はあります。
実際には、なかなか治療効果の指標となる数値(RPR)が低下してこないときには疑う必要があります。
その場合、脳脊髄液(脳と脊髄が浮いている液体)を抜いて調べる必要があります。
内服ではなく点滴による抗菌薬治療が必要となります。
また、眼梅毒(視神経炎、神経網膜炎など)、内耳梅毒(難聴など)も神経梅毒と同じ治療が必要です。
※視神経、内耳神経は脳から伸びる12対の脳神経のうちの2つであり、視覚、聴覚に関係します。
HIVは単独では感染率がかなり低く、簡単に感染するものではないのですが、傷や炎症(HIVの入り口)があると確率は数倍になってしまいます。
例えば、クラミジアにより尿道に炎症があったり、梅毒で濃厚な接触のあった場所にできるしこりに潰瘍(えぐれた傷)ができていたりするとHIVに感染しやすくなるのです。
唇にしこり(硬結)と潰瘍(硬性下疳)ができています。
痛みなしの軟骨のような硬さのしこりを触れる。この傷の中に梅毒の菌がいるとともに
ここからHIVが侵入する。
そして、再感染の可能性がないのにRPRがなかなか下がらないときは神経梅毒とともにHIV感染も疑う必要があります。
性感染症は複数同時感染も多く、無症状も多いため、不特定多数の方との性行為などがあれば半年に一度は梅毒とHIVの検査をおすすめしています。
※また、ほかの性感染症を発症した際にも、梅毒とHIVを確認しておきたいところです。
※このように、梅毒とHIVはセットで扱われることが多いため、患者さんの梅毒に対する恐怖感も強いように感じます。
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